HOXAN

インタビュー

水戸岡鋭治氏Eiji Mitooka

手間隙をかけることで、価値をもとの素材の何十倍にもする。

尾山:水戸岡先生には、九州の駅舎や列車、また店舗等の内装材料として、弊社の木材製品を採用して頂きありがとうございます。
先生のデザインされた空間には様々な自然素材が使われていますが、そのなかでも「木材やツキ板」というのは、どのような可能性があると思われますか。

水戸岡:僕は、こんなに手間がかかってこんな細かいところまでやるのかと言われるような仕事をしたいと思っています。シンプルでかっこよくてスッキリとした空間がありますが、そんなのはしたくないんです。
そういう点で木は最適な材料です。手間隙を惜しみなくかけることによって、価値をもとの素材の何十倍にもしていくというのができますから。

尾山:私たちは木という素材を提供して、それがデザインが加えられることによって生かされていくことをとても嬉しく感じます。大分駅新駅舎開業の時に私も伺いましたが、天井、床、腰壁等に多数弊社の木材製品を採用して頂きました。手前味噌になるかもしれませんが、木がふんだんに使われていることによって高級感とぬくもりのある空間になっていますね。特にウォールナットに、鶏をモチーフにした金の箔押しを施した格天井は圧巻でした。思わず見入ってしまいました。

水戸岡:僕は様々な駅のデザインに関わってきましたが、天井と床に力を入れるのが効果的だということをあらためて実感しました。駅の壁はどうしても上からポスターなどが貼られてしまうので、視覚的に元のデザインとは形が変わってしまうんです。天井は誰も手を触れないですからね。 大分の地元の人たちは、普段何気なく通り過ぎる駅という公共の場に、贅沢を持ち込んだJR九州に対してありがたく感じているようです。あのぶんぶん号と天井と木の床が大分駅の観光スポットになっているみたいです。

大分駅新駅舎。

自然と知らない人とも絡むような仕掛けを考える。

尾山:ところで、「つばめ」にしても「指宿の玉手箱」にしても、ああいうワクワクするような発想って、一体どこからくるのでしょうか。

水戸岡:デザインのアイデアは自分で考えるのではなくて、ひとや時代から貰っています。いろんな人と話したり、その時代のTVや映画を見たりすることでアイデアが沸いてくるんです。
先生だったり、友達だったり、周りのいろいろな人達皆がそれぞれ素晴らしい生き方や経験をしていて、まさにコーチとして僕に指導をしてくれる訳なんです。北三さんは木の素材のコーチをしてくれていますね。良いコーチがつかなければ、良い仕事ができない。そして、良いコーチがついてもその人の聞く力と使う力が必要です。それから、信じるということです。いくら良いアイデアでも、疑いを持って接していたら、上手くいきません。
最後は勇気を持って使ってみるということと、思い切って誰もやっていないことをやってみるということです。皆さんにとってはなかなか難しいみたいですが、僕はいい加減だから(笑)。

左:水戸岡鋭治氏、右:尾山信一

水戸岡:人の意見を受け入れて成功して、人のおかげで生きてきて、ここまで来る事が出来たと実感しています。唯一自分から出てくるアイデアといえば、子供の頃の思い出からでしょうか。僕が少年時代、父と一緒に電車に乗っていたときに、たまたま前の席に座っていたおばさんとそのお嬢さんが、なんとなく父と会話を始めたんです。そのうちにお菓子をもらったりして次第に仲良くなっていって、そうやって知らなかった人達ともみんなで一緒になって楽しい旅をしたという思い出があります。
こんな風に知らない人と出会ったり、知らないものを見たりする体験が一番面白いんだと思います。今の子供たちにもそのような体験をしてもらいたくて、デザインをする時に自然と知らない人とも絡むような仕掛けを考えたりしています。

尾山:なんだか最近の日本は、誰とも話さなくても生活が出来てしまうという時代になってしまいましたね。隣の家族の構成もわからない、だけどもそれでも特に困ることもなく、テレビやパソコンを見ていれば時間は過ぎていきます。でも、昔は何も無かったですね。

水戸岡:そうですね。昔は、何も無かったから自分で動くしかないんですね。自分で考えて、自分で動いて、自分で作って、自分で構成するしかなかったですね。それが人を育てるんですが、今は家庭にも街にもそういう機会(チャンス)がないですね。
そこで、じゃあ、列車の中にその場を作ろうというわけです。席数が減っても大きなテーブルを真ん中において家族で団欒したり、皆が自分の思っていることを
喋ったり食べたりという、一見無駄に見えるけど、人間にとって最も大事なコミュニケーション、対話が生まれる空間を作る。それは時代が求めていると思うんです。近所付き合いがなくなって、家族付き合いがなくなって、その間に年取って独りになって寂しいっていう時代に日本はきていて、お金持ちだろうが貧乏人だろうが、皆同じような状況が起きています。じゃあどうすればいいか、それを直すにはやっぱりさっき言った、皆が集える空間が必要です。
たまたま私はJR九州の仕事をしていて、多くの人が集まって、安全で安心できる町や市を設計するという仕事をしているので、そういう風に捉えていますね。

子供席が窓側になる車両。